クリエイティブ・ディレクターという職能を解き明かす【読書感想】

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「すべての仕事はクリエイティブ・ディレクションである。/古川裕也」を読みました。感想をまとめておきます。

クリエイティブ・ディレクションって難しい。仕事やプライベートで、ものづくりの最終責任者として関わったことが何度かあるけれど、企画当初のイメージ通りのものができない。想像を越えるクオリティを作り上げられない。クライアントの期待値を越えられない。この時点で、クリエイティブ(最終制作物)をディレクションする責任者として失格でしょう。こればっかりはもう、最終責任者として、チームメンバーをディレクションをした経験がないと難しさは伝わらないのだけれども。正直、自分がディレクションすればいいものが出来ると、ずっと高をくくってました。でも、それが出来なかった。

そういった意味で、クライアントの期待値を越え、世の中を動かすクオリティの制作物を作り続けている広告会社のクリエイティブ・ディレクターは、尊敬に値します。その秘訣は何なのか?そもそもクリエイティブ・ディレクションとは?そして継承可能なものなのか?そんな疑問を解決したくて、この本を手に取りました。

著者は電通CDC局長だった古川裕也さん(2015年発売当時)。有名な仕事に「九州新幹線全線開業 祝!九州 / JR九州」「すべての人生が、すばらしい。 / リクルートポイント」「牛乳に相談だ。 / 中央酪農会議」などなど。日本を代表するクリエイティブ・ディレクター。電通CDCの局長ってことは、まあ簡単にいうと電通クリエイティブのラスボスってことですね。超絶偉い人。そんな人がクリエイティブ・ディレクションについて書いた本です。

全部で328ページ、序章〜第6章まであります。第1章ではクリエイティブ・ディレクションの方法論を、第2章ではアイデアが生み出される力学について述べています。そして、第3章でケーススタディをはさみつつ、第4章以降でクリエイティブ・ディレクションという技術の展開可能性や未来のクリエイティブ・ディレクター像について語っています。個人的には第2章までが一番面白く為になったかなと。

具体的方法論とクリエイティブ・パーソンの態度

序章〜第1章では、「クリエイティブ・ディレクターという職業をつづけるとできるようになること」にはじまり、クリエイティブ・ディレクションの具体的方法論について余すことなく書いてくれています。具体的には「クリエイティブ・ディレクターがすべき4つのこと」を下記のように挙げており、

①ミッションの発見

②コア・アイデアの確定

③ゴールイメージの設定

④アウトプットのクオリティ管理

として、それぞれについて詳しく解説がなされるという章立てになっています。かなり体系的にまとめられており(正直あんまり期待してなかった)、めちゃくちゃ勉強になりました。クリエイティブ・ディレクターの人たちの頭の中を、ガッツリ垣間見ることができる。と同時に、今の自分との距離感を図る意味でも為になりました。

第2章では良いアイデアを生み出すための方法論について述べています。クリエイティブ・パーソンとしての基本的な態度に言及しており、自戒の意味も込めて少し引用して紹介します。

今までになかったアウトプットを生み出すことによってのみ、クリエイティブの仕事は意味を持つからである。それは、インダストリー全体の歴史を前に進めたと評価される。同じことを二度とやってはいけない。それがルールである。新しさは、必然的に大きな副産物をブランド、すなわちクライアントにもたらす。「リスペクト」である。

新しさを確実に生み出すために歴史を認識しておくことは、クリエイティブ・パーソンが、絶対にやっておかなくてはいけないことである。

クリエイティブ・ディレクションは技術である

この本で一番勇気をもらったのは、クリエイティブ・ディレクションは技術であるということ。この仕事は才能が必要で、天才にしかできないのではないか、と思われがちですが(自分自身もそう思っていた)、そうではないと。著書の中でこう述べています。

クリエイティビティをエンジンにする仕事は、すべて、技術職である。技術の定義はふたつ。上手下手があること。正しい方程式に則って繰り返せば上達可能なことだ。

クリエイティブ・ディレクターには、どれくらいの天才性が要求されるのだろう。すべてのいわゆる単純労働が、「できる人が限られている度」がもっとも低い職業群だとすれば、クリエイティブ・ディレクターは、ほぼ真ん中、もしくはそこより多少高い程度だと思われる。なぜなら、それは、とても論理的に構造化された仕事だからだ。習得すべきクリエイティブ・ディレクションの方法論さえ間違わなければ、誰でもある程度のレベルでやっていける仕事だ。

つまり、誰だって正しい方法論で学べば習得可能であり、誰かに伝承可能なものであるということです。クリエイティブ・ディレクターの仕事を尊敬し、憧れていた側からすると、とても勇気づけられました。そういった意味で、クリエイティビティが求められる仕事をしていて、それがうまくいかなかった経験のある人たちが読むには、ピッタリな本だと思います。明日の仕事のモチベーションがあがるというか。

広告業界以外の方も手にとって欲しい

今日は業界的な視点でこの本について触れましたが、広告業界以外の人が読んでも面白いと思います。なぜならクリエイティブ・ディレクションは、人生すべてにおいて応用可能な技術であるから。著者自身も下記のように述べています。

クリエイティブ・ディレクションという方法は、ほぼすべての仕事に、応用の効く考え方であり、技術なのである。…(中略)…。すべての仕事には、何らかのクリエイティビティが必要だということを意味している。逆から言えば、クリエイティブ的(昨日までなかった何かを生み出して課題を解決する)であることで初めて“仕事”の名に値するということだと思う。…(中略)…。子供をつくり、育てること。家庭をマネージすること。年老いて心身にいくつかの問題を抱えている両親と暮らすことなど。これらはどれも、人間にとって、いちばんクリエイティブな仕事だ。それは、最初はなんだか茫漠としている。けれど、その中から、いちばん本質的で実際にできることを発見し、ひとつずつ、丁寧に解決し、形にしていく。クリエイティブ・ディレクションという技術は、ものごとを良い方向に変えようとする時、すべての人に有効な方法論なのである。

以上、長文にはなりますが、 「すべての仕事はクリエイティブ・ディレクションである。/古川裕也」に関する感想でした。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。